インターネットあっちこっち

おじさんが、水族館や動物園に行ったり、そのへんでお酒を飲むブログです

メカメカしい機械たちと熱心な係員さんたち、とても楽しかったJAMSTEC横須賀本部一般公開(その1 海底広域研究船「かいめい」とそのメカ)

あいにくの雨だけど

毎年の5月半ば、海洋開発研究機構(以下JAMSTEC)の横須賀本部が一般公開され、JAMSTEC保有する船艇や機器・研究施設の一部を間近に見ることができます。以前一度行ったことがありましてすごく面白かったのでまたいつか行こうとしていたところ、ちょうど日程が被るように「野毛で飲みましょう」という誘いがあって、日が高いうちは一般公開に行ってあれこれ見て、戻りながら野毛飲みだな、「帰りがけ」*1で0次会するのもありだななどと意気込んでいたのですが……

それも結構強い雨

お目当てのひとつだったサメの解剖が中止になっていたことにしょんぼりしつつ、追浜駅から無料のシャトルバスで横須賀本部に向かいました。

f:id:hms_ulysses:20170513123239j:plain
本日のお目当て海底広域研究船「かいめい」。昨年3月に就役した新鋭船です。
f:id:hms_ulysses:20170513123254j:plain
この桟橋は横須賀港の北端と行った位置で、すぐ横が日産自動車の専用埠頭、見えにくいのですが、吾妻島の向こうに横須賀に入港せんとする「あきづき」型護衛艦の姿が見えたりします。

長期間の研究航海を支える居住区画

f:id:hms_ulysses:20170513123756j:plain
タラップを上がって順路の一番最初にあるのがこの食堂。写真後ろ側がキッチンでカウンターの守られた料理を自分で取っていくビュッフェとなっています
f:id:hms_ulysses:20170513123951j:plain
飲料コーナーにはネスカフェのドルチェ・グストっぽいものもあり、飽きないような工夫だよなーと思いました。俺はもう会社の近くの自販機とコンビニ飲料には飽きてきたよ……。
f:id:hms_ulysses:20170513124135j:plain
自販機の横の階段を上がって、こちらは首席研究者の部屋。長期の研究航海のために基本一人一部屋の割り当てになっている「かいめい」の中でも特に広く、寝室と執務室が別れたスイートになっています。ユニットバスも備え付けられているそうで、一般船舶あるいは自衛艦での船長/艦長/司令に相当する待遇です。*2
f:id:hms_ulysses:20170513124208j:plain
こちらが一般の研究者寝室。洗面台に冷蔵庫付きとこちらも設備充実。収納スペースこそ限られていますが、乗り組んだ研究者も陸の自分の「研究室」に近い感じで使えるんじゃないでしょうか。
f:id:hms_ulysses:20170513124218j:plain
こちらは別の研究者寝室。違うところが一点あるんだけどわかりますかね?
そう、ベッドの上の毛布のたたみ方が違いまして、上は「八重桜」、下は「二枚貝」があしらわれた飾り毛布となっています。司厨部*3に皆さんの心配りでしょう。一般公開向けなのか、実際の研究航海のときも初日は準備しておくのかは不明。他の部屋だと「松竹梅」「二輪草」「富士山」などが飾ってありました。

最新機器を動かす機能が集約されたブリッジ

f:id:hms_ulysses:20170513124435j:plain
居住区から階段を上がっていくとブリッジに出ます。品のいい調度の給湯スペースがあるの、一つは長丁場の作業時にブリッジに詰めっぱなしになる船員さんたちのためなのかなと思います。あと壁の裏手側に第1研究室という音響関係の調査を行う際のオペレーションルーム兼研究室があるのでそちらへの給湯も意図されていそうです。
f:id:hms_ulysses:20170513125855j:plain
f:id:hms_ulysses:20170513124925j:plain
ブリッジを両側から。大変広々としており、両端では後ろ側にも窓が設けられていて、広い視界が確保されています。それっぽく言うと艦橋ウイングまでエンクローズドされている。
f:id:hms_ulysses:20170513125755j:plain
操舵輪正面からの視界。ブリッジのコンソールはもちろんピカピカの電子化が進んだ現代的なもので、多目的っぽいディスプレイにはレーダー画像(左)、電子海図(右)、および推進装置の説明動画(真ん中)が映されていました。
f:id:hms_ulysses:20170513125809j:plainf:id:hms_ulysses:20170513125231j:plain
さて、この「推進装置」が「かいめい」の船としての大きな特徴の一つで、「アジマス電気推進」という仕組みを採用しているのです。

現代の多くの船舶は船体の下のほうに機関室を配置してそこでエンジンを回し、その回転をスクリューに伝えることで前後に進みます。車のエンジンとタイヤのイメージでだいたいあっている感じ。これに対して「かいめい」は船体内の発電機で発電した電力を船体後尾に装備した推進ポッドに伝え、ポッド内のモーターを回してスクリューを回して進みます。車で言うとタイヤを直接モーターで回しているイメージになりますね。では、このポッドを使った「アジマス電気推進」のなにが従来の方式に比べて優れているかというと、船体内に力を伝えるでかい回転軸を通さないで済むためレイアウトの自由度が増すこと、また推進ポッドは360度回転できるため、従来のスクリュー+舵の推進装置に比べて細かい操船操作ができます。*4

上の写真で左側に写っている、プラスチックカバーの掛かった、なんて表現すればいいんだろう?取っ手の付いた筒がアジマス推進機の個別の操作機で、取っ手の部分を倒した角度で速度を、筒の部分の回転角度で方位を調整します。GPSにアジマス推進器プラス船体に装備された位置調整用の小型推進機*5を組み合わせることで、潮や風の流れがあるところでも一定地点にとどまったまま、調査を続けられるようになっているとのこと。
f:id:hms_ulysses:20170513130805j:plain
雨をついて採取・研究区画に降りていきます。

採取・研究区画

f:id:hms_ulysses:20170513131125j:plain
観測用のウインチシステム(の一部)。機材によってさまざまなロープやケーブルが使われる。深海に機材下ろすの色々と苦労があるとのこと。
f:id:hms_ulysses:20170513130848j:plain
こちらは海水調査センサーを下ろすための装置。海洋調査船だけあって、とにかく海中にものを下ろす機械がいっぱいです。これらの操作は上記のブリッジではなく甲板や船体に設けられた制御装置にて行われます。
f:id:hms_ulysses:20170513131422j:plain
甲板をひとつ降りるとそこには水深3000m級の無人探査機とその投入装置が。「かいめい」の基本装備のひとつです。上のメッシュになっている円筒の部分が「投入装置」、下のオレンジの部分が「無人探査機」。黄色と青の円形のやつがスクリューかな。
f:id:hms_ulysses:20170513131803j:plain
大きな開口部から船体内に戻ります。下に鉄のレールが引かれていることから分かるように海中から引き上げた試料を台車で研究室に運び入れられるようになっています。右側、人が立ち止まっているところが研究室の入り口です。
f:id:hms_ulysses:20170617144841j:plain
第3研究室内。
f:id:hms_ulysses:20170513132205j:plain
第3研究室と格納庫の間には整備室がありました。「せっかく海に出たはいいが機材が壊れて採集も研究もできない」という事態を防ぐためでしょうか、民間船にしてはなかなか充実した雰囲気。
f:id:hms_ulysses:20170513132335j:plain
f:id:hms_ulysses:20170513132659j:plain
こちらは格納庫。護衛艦のヘリ格納庫を見慣れた目にはちょっと狭い。ここにも機材移動用のレールが敷かれているのが分かるかと思います。ちなみにここに格納されるのは
https://www.instagram.com/p/BUBcbaelvaR/
このどこかFGOのパッションリップさんみを感じる試料採集装置の「パワーグラブ」など*6。左の爪型のが岩石など硬いものの採取用、右のグラブ型のが柔らかい海底面をそのまま掬い取る*7用。グラブ型のはどれくらいの塩梅で使用するとちょうどいい量の資料が取れるのかなど、まだ試行錯誤中とのことでした。
f:id:hms_ulysses:20170513132549j:plain
後甲板。奥の青いのが重量物を海中に投入するためのAフレームフクレーン。右の白いのは15トンクレーンで…まあここも海中にものを下ろす機械がいっぱいです。あと、ちょっと勘の良い方には目についていると思うのですが、「かいめい」作業甲板が木の板じきになっています。木は使っているうちに傷んでくるし経費もかかるので、どうしてこうしたのかなーと思って乗組員の方に聞いたところ色々利点があるようでして

  • 鉄の甲板+塗料だと甲板作業の際暑すぎる
  • いろいろな機材を船上で取り回すので甲板に傷がつきがち。鉄の甲板だと錆止めも兼ねてキズにペンキを塗っていかないけないが木だとそこまで気にしないでいい
  • 濡れても滑りにくい

などが木の甲板の採用理由だとか。
f:id:hms_ulysses:20170513133126j:plain
ここいらで下船。
他にも「かいめい」は無線LAN完備なんですがその管理を行っているのは他船での「通信長」に当たる「電子長」さんで、その電子長さんに色々お話うかがっている時に「船のシステム化がどんどん進んでいくと『通信』部署の乗組員はいわゆる船員の枠組みから外れていくかもしれないですね」なんて仰っていたのが印象に残りました。乗組員のみなさん、おっさんの素朴な疑問にも嫌な顔ひとつせずとことん答えてくれるのですごい楽しかった。

「かいめい」以外の展示については
JAMSTEC横須賀本部一般公開(その2 無人探査艇その他)
に続く予定!

*1:追浜のスタミナ焼きの名店

*2:そもそも一人部屋が各自に割り当てられているの非常に厚い待遇で、自衛艦でもちょっと前までの艦だと士官私室も複数人部屋が基本でした

*3:船内で食事の提供や居住区画のメンテなどに当たる部門

*4:悪い点としては装置が複雑になるので故障のリスクが高まる

*5:バウスラスタ

*6:このときは船外の格納庫に展示してあった

*7:アイスクリームのディッシャーのイメージ